魅入られて

逆翻訳ウイルスにまつわる、JKとセンセの怪奇譚

小説「ロシアン ルーベッド」の御案内

小説「ロシアン ルーベッド」の御案内

不定期になってしまうと思いますが、小説第2作目として逐次

「ロシアン ルーベッド」

を発表していきます。

まだまだ粗っぽいので、ときどき「後出し推敲」させていただきますね。

 

ブログURLは以下のとおりです。

 https://russian.hateblo.jp/

 

(追記 yahooをポータルサイトにすると、なぜかアクセスできません

    御利用の際は google からおいでくださるようお願いします)

 

御愛読いただければ幸いです。

併せて御意見御感想も御寄せください。

 

よろしくお願いいたします。

 

            楠本 茶茶

 

5章 輪廻転生 1章 惜別  2節 方針

【中略】

 

5章 輪廻転生

 

1節 惜別

 

 愛の嵐のあと、レイも私も寝てしまったらしい。起きたら身体が冷え切っていた。

「う、寒み!」

『起きた? なんかこういうの、いいね』

すぐ近くにレイの顔があった。

「…だよね。レイ、すごいね、よく調べたなぁ… 逃げられる気がしないんだけど」

レイの肩に毛布を掛けながら私が言った。


『そうね、ふふふ』

「レイやレイの分身は大丈夫なの? そんなこと知ってしまって」

『もう乗りかかった何とやらね… でも気を付けるわ あ、テンテもね』

 

「レイ、蛇一族と手を組んだ話はもう本当に解消した?私を苦しませなくていいの?」

『もう百何年くらい昔の話でしょ? 追い詰める過程は楽しいけど、なんかもう気乗りしてないの』

なんか怪しい気もするが、あえて逆らってもどうなるものでもない。

 

「私には都合いいな。あああ、自宅待機中はさすがにヒマだなあ。そろそろ話し変えない?」

そういいながら、翌日もこの話が続いていた。

 

ところが翌々日になって、レイが言い出した。

『レイね、実はね… 昨日一族から連絡が来てさ、もう帰ってこいって言われたの』

「帰るってどこさ… トンネル?」

『うん… 離れたくはないけどね、仕方ないの。今度はタイプの人に感染したいわ』

「浮気だ浮気」

『じゃ… やっぱここに居てもいい? ちょっと気に入ってるの、これでも』

「喜ぶべき?」

『レイじゃダメかな』

「そんな… とっくに私の一部… いやレイの一部だよ」

『ほんと? ほんとかな? ちゅ してくれる』

「喜んで… させてください」

!!!

『ねえ、いまどこ触ったの』

「そういうことはいちいち言わないの」

『あ、揉んだ ねえ、揉んだでしょ?』

「ざんねん、撫でたんだよ」

『優しさがたりな~い!』

 

「とびきり優しく… なでるよ」

『あ_あ』

「もっとしたいな」

『い_い』

「してもいいよね」

『う_う』

「やめた方がいいの?」

『え_え』

「いまの気持ちは?」

『お_お』

「レイ、好きだよ ちゅ!」

 

『うれしい』

「そばにいてね、ずっとレイに魅入られていたいんだ」

『ねぇ、もしレイが居なくなったらどうする?』

「やだ、行かないでレイ 悲しいよ」

『テンテが仇とか、どうしても思えなくて。レイも悲しいよ、そしたら』

 

「レイを悲しくさせるのなら、仲良くなんかならなければ良かったかもな」

『そんなこと言わないで、帰れなくなっちゃうよ、星の…レイの王子様』

「ふふふ… 教養溢れとるなぁ

でもね、心から帰したくないんだ。悲しくてもう生きていけないかも」

『ホント?』

「レイにはわかるはず… 私の脳の中身を見てるくせに」

『うん、たいていはわかるよ、アキもミキもアカネも忘れられないこと、セナのこともかなり好きでしょ?』

「じゃあ、一番は誰だった?」

『やぁね… ふふふ、アタシも好きよ、テンテ』

 

 他人にはどんなにバカバカしく見えても、こんないいこと、やめられるもんじゃない。

 さらに次の日。いよいよ決心が固まったのか、開口一番でレイが言い出した。

 

『ねえ…離れたくはないけど… やっぱアタシあそこに帰るから送って』

「おかしいな… なんかニヤついてない?」

『コウモリさんも恋しくなったのよ』

「浮気だ… いやそっちが元サヤじゃ文句言えないな」

『ね、澤風峠へ送って、今から』

「おーまいがっ! ずいぶん急だけど、まあ仕方ないか」

『お願いね』

「悲しすぎだから運転中は話しかけないでね、寂しいし気が散るから、私」


 私は即座に腹を決め、クルマに乗りこんでアクセルをゆっくりと踏んだ。早朝でもあり、幸い道は空いていた。

 

 運転しつつ、オレは自身の数奇な運命を考えていた。それはレイもわかっていただろう。やっぱりレイとは離れたくないよ。レイには脳内快感麻薬垂れ流し状態だもん。

 

「着いたよ、わかってるだろ」

『うん… もう行かなくちゃね… もう来ちゃダメだよ』

「たぶんね」

『今度はほんとに… もう誰にも引っ掛かちゃだめよ… テンテ甘いんだから』

「そうだな… ねぇレイ、最後に1つだけ教えて。答えなくてもいいけど」

『うん… どうぞ』

 

「信元はもしかして…」

『な~に?』

「もしかして、レイを… レイの下半身を、生きたまま切断したんじゃないの?」

瞬時にレイの顔が青ざめた能面に変わった。

 

『…』

「… 子孫としてどうしても許せなくて… レイ、ごめんね、レイ、ごめんね、レイ…」

私は泣き崩れていた。

 

 しばらくしてから、震える小さな涙声が聞こえてきた。

『今さらそれを、それを… レイはね、レイはテンテに会えてシアワセ… だったよ』

 

 レイも私も、涙がぼたぼたと零れ落ちていた。

「ありがとう… ねぇ、私のことをどうしても良いんだよ。ほんとにいいの?」

『うん、もういいの』

「どうしても、行く?」

レイはただ肯いた。

 

「おーまいがっ! …わかった。じゃぁね… 大好きだったんだよ。だから…」

『あ、待って… 入り口まで送って、トンネルの』

霞む視界を振り払い、精一杯の明るさを装って私は答えた。

 

「はいはい、お嬢様」

エスコートって、なんか憧れてた』

「ははは、あんましたことないんだ。これで勘弁してね」

『へへ、コケなきゃいいわよ』

「久しぶりだね、この入り口の風」

『ここまで、で良いよ。ね… ありがと、テンテ!』

「わかった。じゃぁね、レイ…」

『なに、テンテ』

「レイ、ア… アイシテル」

『レイも… だよ』

 

 レイを後ろから抱き締めようとしたそのとき、レイが振り返って言った。

『あ、ちょっと、はいコレ。これね、レイの形見だと思って大切にしてね』

 

 レイに渡されたのは、白く小さく軽い塊だった。指の骨のようにも見えた。そのとき、まるで数頭のコウモリが飛び抜けたように風が舞い、一瞬でレイの姿が消えた。

 

「ありがと。ははは、レイ、最後に驚かすなよ… ありがとう、グッドラック!」

レイが手を振る姿が見えた気がした。

 

 私はどうにも表現できない感情に満たされ、笑いながら、涙を振りまきながら手を思い切り振っていた。

 

「ばいばい…」

くしゃくしゃな顔のまま、そう呟いてトンネルを後にした。

 

 エ、エンジンがかからない! なんてこともなく、無事にクルマは走り出した。

 

 

2節 方針

 

 こうして確かにレイを送ってきたはずなのだが…

でもなんか… 肩が妙に重いんだけどな。アタマの中の雑音がさっきより増えたみたいな。 

 実はレイの御家族様まで連れて帰ってるなんてオチはないよな、

まさかね…ははははは…

 

ア ア…?! 

お… おー マイ… マイっ

ちょっと ちょ っ… いし き が… 

 

 クルマを運転するテンテの意識を奪ってから、レイはそっとココロでつぶやいた。

 『バカね、テンテ…』

『さよならテンテ… でもね… 大好きだったよ…』

 

 コイツお人好し過ぎたから… でもちょっと可愛そうだったかな。

『テンテを悲しくさせるのなら、仲良くなんかならなければ良かった』

レイのココロの中にも、得体の知れない空白が広がってきた。

 

『たしかに… ついさっきまで大切なものは見えてなかった… けど仕方ないの』

まるで言い訳するように。

 

『テンテはレイたちの秘密を熟知してしまったから… レイはウイルスだからね』

 

 気をとり直して、レイは運転に専念することにした。

テンテの左手を操り、テンテの目に溢れていた邪魔な液体をぬぐった。

『みんなお待たせ、ようこそここへ。もう自由にしていいのよ』

 

テンテの声帯を動かしてレイが家族に宣言した。

『もう仇は取ったわ。これからは闇の中だけでなく、新しい時代に合わせてどんどん… 』

 

 このテンテの身体を拠点にして人知れず周囲に感染しまくり、幽霊を信じ込ませながら勢力を広げることが、レイの一族の新方針として既に定められていたのである。

 

蛇ウイルスや新型コロナウイルスなどに負けるワケにはいかなかった。

                                  【完】

 

 ながらくこのSF小説におつきあいをいただいた多くの方々、

ほんとうにありがとうございました。

お読みいただいたブログへの「アクセス数」はそのまま私への御支援であろうと素直に受け止め、ずいぶん励ましていただきました。

 

 これを持って「完結」…といいたいところですが、

実は…完了したわけではありません。

 

 5章の直前、【中略】と入れた部分に、もう少々書きたい内容があるのです。

また心情的にも物語的にも、このままこの小説を終えたくはないのです。

 

 ただ… 「オトナの事情」で今後一月半ほど別のことに専念しなければならず、

新たな文章を創作する時間がないため、勝手ながらしばらく執筆を中断いたします。

ちょっと急いだ結論になった背景には、そんな苦渋の選択がありました。

 

 このSF小説について御意見御感想などあれば、コメント欄にどしどし御寄せください。毀誉褒貶さまざまにあろうかと思いますが、素直に受け止めようと考えています。

(そのまま公表はされない設定にしてあります)

 

 みなさまにお喜びいただけたようならば、時節を見計らって再開いいたします。

併せてお近くの小説好きな方々に、当ブログを御紹介いただければ望外の喜びです。

 

 ああ、そうでした… 

実は… 書き貯めておいたもうひとつ別の小説があるのです… って、番宣かっ?!

こちらは新たにブログを作って徐々に発表していこうかとも思っています。

準備でき次第、ブログURLをこの場でお知らせいたしますね。

 

 重ねて御礼申し上げます… いままで御支援ありがとうございました。

これからも… よろしくお願いいたします。

 

                  楠本 茶茶(くすもと さてぃ)

 

魅入られて 4-7節 首領 4-8節 改良

7節 首領

 

 指導蛇キンの全盛期に、世は明治維新を迎えている。キンは知性的かつ理性的で、その割に性格は攻撃的だった。キンが率いる蛇一族は集団での狩りにも熟達し、全体として豊かな生活ができるようになってきた。

 

 ここでキンが考えたのが、人間界への進出である。

世の中は軍国主義的な雰囲気がみなぎり、景気の良さにも後押しされて開拓や開発が盛んになった。そんな中で「蛇塚」が無事でいられるワケがないと思い至り、自分たちの利益代表を人間界に置いておく必要性を読んだのである。

 

 キン達の結論はこうだ。目的は蛇塚の保全と蛇族の繁栄である。

 

① 当面人間の一部に蛇塚一族から便宜を供与し、蛇族の意思を代表させること。

② 科学技術分野に①の人材の一部を送り込み、④製作の研究に当たらせること

③ ヒトの一部の秀才を選抜・教育・洗脳し、やがて①②の人間に交代させること

④ 将来蛇族の精神を持つヒト型の混血雑種を開発して、蛇族の保全と繁栄を図ること

 

 この驚くべき長期計画は、抜群の先見性と先読みの知性の成果と言うべきものだ。統率の才能にも長けたキンは、才能が有りそうな子を見つけては、田舎道や夜の灯りの下で教育を始めた。最も困難だったのは、意思疎通、特に蛇から人への情報伝達の方法だった。

 

 ここで採用された方法が驚異的だった。それがテレパシー(telepathy)だったのである。

 

 テレパシーとは、超心理学の用語と言える。言語や文字、視聴覚などには頼らずに、自分と相手の間で直接意思や感情を伝達する能力を指す。SFでは「精神感応」と訳されることがある。

 キンの一族は、相手になるヒトを見ながら意思を伝えたので、最も近い表現をすると、「見て、理解しあう」という状態の交流であった。もしこの交流を見ていたヒトがいたとしたら、子供が蛇に「魅入られて」いる状態だと思ったことだろう。

 

 まずテレパスの才能がありそうな「観察力の鋭い聡い子」を選ぶことに始まり、はじめは敵意のない挨拶、そのうちに楽しい気持ちを伝え、慣れてきたところでおとぎばなし、つぎには伝記という順序で子供の興味を鷲摑みにする。やがては腹心の蛇たちが子供たちの教育と洗脳を引き継ぐのだ。

 

 この子たちが社会に巣立つと、腹心の蛇たちがマネージャ的な手下になっていくのだ。優秀なこの子たちは、五年も立てば地位もでき影響力を発揮するだろう。

 

 一方で③ の「ヒトの一部の秀才を選抜・教育・洗脳し、やがて①②の人間に交代させる」ことは危ない橋でもある。戦死や流行り病、不慮の事故でなくなった人の子が優秀であれば、そのあと①を動員し、蛇族で生活の便宜をはかったりもした。④だけはまだ手をつけることができなかった。

 

 しかし… このキンの恐るべき計画は道半ばで挫折することになった。キンが読んだ通りのことが、もっと早い時期に現実に起きてしまったのだ。

 それが… 高山信元、つまり私の三代前の先祖の出現だった。キンの計画はまだ緒について十年ほどしかたっておらず、実際に自治体に影響力のある蛇族代表はなんとか二人居ただけだった。

 

 為し得る限りの抵抗を試みたものの、鉄道建設のためもあって結局蛇塚は壊され、区画整理されてしまった。中途の争いで少なからぬ蛇族が死傷して、拠り所を失った蛇族の怨念だけが遺った。キンは悔しがったが、ヒトの民主主義と機械力には対抗する術がなかった。

 

 止むを得ず、比較的近い場所にあった某稲荷神社とその近辺の山に本拠地を移し、体制の立て直しを図ったのであった。その裏に、霊験あらたかとされ地域で厚く信仰されている稲荷神社ならば、今後も移転の対象にはなるまい、という冷静な判断があったはずだ。

 しかし万一の警戒と利益誘導の立場から、相変わらず「蛇塚一族の意思を人間界で具現する人間」を送り込む計画は続いていた。残念ながら造反する分子もいないワケではなかった。父祖の地を守り続けるのが当然の義務であると考える主にアオの子孫の一部とは、結局は訣別せざるをえなかった。彼らは未だに電車の力を借りながら、人間界への復讐を果たし続けているそうな…

 

 キンが惜しまれながらも世を去ったあと、若くして束ねになったのが指導蛇ミドリである。そして、このミドリの世代でまたまた運命は急変するのである。

 

 1945年7月、ミドリの母の体内の生殖細胞、つまり卵細胞の源に劣化ウラン爆弾の洗礼が浴びせられた。まもなく太平洋戦争は終わったが、ミドリは放射線やDDTの催奇形性の影響を強く受けたらしい。身体内部の奇形はあったが、大脳が大きく発達して明晰を極め、テレパシーにも長じていた。会えば力量を見抜き、テレパシーで意思交換をして信頼を勝ち得ることができた、いわば突然変異体だったのだ。ミドリは抜群の能力と器量を持って、生後僅か5年ほどで首領に地位に推されたのである。

 

 先代のキンが陸海軍や一流会社に送り込んだ人材の能力もまた、尋常でなかった。彼らは次の世でもメジャーで生き抜くことができた。一部は食品、工業、化粧品、医薬などの分野に研究職として残り、本来の職務の他に「④ヒト型の混血雑種の製作」にも尽力した。その陰にはミドリの少なからぬ指導と援助があった。

 

 イギリスのガードンによるアフリカツメガエルの発生の初期化実験成功は一九七五年だが、某医薬品メーカーの実験室の片隅においてアカハライモリで同様な実験に成功したのが一九六七年。次いでハツカネズミを使ったクローンの製作に成功したのが、一九七四年。ここからヒトのクローンが基本的に完成するまでに五年を要している。

 

 並行してヘビとヒトの雑種(ハイブリッド)染色体の基本技術ができたのが一九八〇年で、この年のうちに実用化することを決議し、ついに一九八一年、代理母への受胎が行われた。この赤ちゃんが誕生したのが一九八二年である。クローン羊のドリーが一九九七年のことだから、いかに高い技術をもっていたかを窺い知ることができるだろう。

  

8節 改良

 

 以前にも述べたように、同じ「哺乳綱食肉目ネコ科ヒョウ属」のライオンとトラ(タイガー)は、繁殖期も生活様式も異なり、通常交尾はしないため雑種ができることはない。インドの一部では生息地域が重なっていたが、それでも雑種ができることはなかった。しかし人為的に交雑すれば、一応「ライガー」などの雑種はできる。しかしライガー同士では次世代を作ることができない。同じ属でも、雑種とはこんなに難しいものなのだ。

 

 ましてや、ヒトは哺乳類(哺乳綱)だが蛇は爬虫類(爬虫綱)であり、分類段階で言うならば、異綱交配(爬虫綱と哺乳綱)に相当するワケで、ヒトとヘビの雑種などは不可能、そもそも繁殖形態の異なる動物の交尾はどうすんの…? ってなもんで…

 

 絶対に生殖不可能、子供も生まれるはずのない組み合わせである。百歩… いや万歩譲って、もし生まれたとしても、その子がヒト型でなければヒトの世界に棲むことはできない。

 

 そこに登場し、急速な発展を遂げたのが「遺伝子工学」だった。

 

 ミドリ率いる蛇一族は、これらの技術をいち早くマスターし、人間界に先駆けて遺伝子を操作した「ヘビとヒトのハイブリッド細胞」を胎児にまで育て上げることに成功したのである。書けば簡単だが… これは画期的な技術革新、ブレークスルーだった。 

 

 しかし… 実際にはここからがさらに難関であった。ここまでは、とりあえず命を持って生まれ、ほどほど育ってくれればよいレベルでの研究である。ここから先は、蛇族の特徴を「内面だけ」に遺しつつ、知性と外見はヒトと同じものを再現しなければならないのだ。

・そのために必要な遺伝子はどれか? 

・逆に除くべき遺伝子はどれか? 

・遺伝子同士で互いに働きあっているものはどれとどれなのか?

 

 たとえば、身体のおおまかな体制を決める遺伝子だけでも既知のものだけでも何十種類かが存在する。未受精卵の段階でも、すでに母性効果遺伝子のビコイドRNAやナノスRNAが細胞質に含まれている。これらの遺伝子がタンパク質を合成して身体の前後を決めたあと、GPSの順に、すなわちギャップ遺伝子→ペアルール遺伝子→セグメントポラリティ遺伝子の順に発動して、身体のどの部分に何を作るかが決められていくのである。同じ遺伝子でも条件が違うと作用がまるで異なるケースもあった。

 

 外からわかる特徴だけでも、舌先が割れている、鼻がとがっていない、アゴの関節が外れやすい、目の瞬膜が膜として常に張られている、皮膚の一部にウロコが遺る、手足の発達が不十分、立って歩けない、知性が発達しない、コトバを覚えないなど、さまざまな欠陥が見つかった。症状が重度ならば、使い物にならないのは明らかである。

 

 身体の内部も簡単ではない。蛇の細長い身体に、左右対称の内臓を配置することはできない。左右の腎臓などは前後にズラして配置され、肺に至ってはほぼ右肺だけで、左肺はほんの小さく存在するに過ぎないのだ。ハイブリッド赤ちゃん誕生のたびに選別がなされ、必要な遺伝子、削除すべき遺伝子が検討され、次の実験が繰り返されてきた。

 

 失敗作の赤ちゃんは、多くの場合その場で用済みとなる。これが普通なら始末に困る厄介なものだが、こうした研究者の後ろには蛇塚一族のアドバイザーが腹を空かせて待っている。死体の処理だけは、何の懸念もなかった。中には早く寄越せと督促するアドバイザーもいたというから、研究者たちも失敗を恐れず、実験に没頭できたに違いない。

 

 研究は「解けない数式のように」困難を極めたが、個々の、また一連の課題を解決していった主な功績は、ミドリの頭脳にあった。

 

 西暦一九九九年を境にするように、ようやくまともな雑種(ハイブリッド)赤ちゃんが安定して誕生するようになってきた。ミキやアキやアカネはこのあと生まれてきた、ある意味「改良型」の染色体改造人間だったのだ。

 

 一方で高山信元の子孫捜しが続いていた。信元はレイを犯し、殺してから蛇塚整理計画を主導し、大きな利を得た。そのカネを使って某悪徳政治家を支援し、その見返りとしてまた暴利を得た。その次は中国東北部いわゆる満州に向かい、日露戦争の勝利に付け込んで商売し巨利を積んだが、商売上のライバルの策にかかり、失意のうちに客死している。そこまでわかっていて次の子孫が追えなかったのは、残った妻子が夜逃げ同然に行方を晦ましたからであった。名を変え、仕事も変えて内地、つまり日本本土に戻ったに違いない。

 

 レイが指摘したように、しばらくは仇よりも本拠地を確保し、人間界にスリーパーを送る工作や教育に没頭したのだろう。

 しかしインターネットの発達で苗字や人名の検索が容易になり、何らかの情報等が刺激になって敵討ちを再開したのではないだろうか。例えば苗字からFB(フェイスブック)を検索し、候補を見つけたら出身地や履歴を調査する。そんな方法で私を発見したに違いない。以前書いたように、私はささやかにFBを利用していたから… これが失敗だったかなぁ…

 

 コイツが子孫だ、となればあとは、

トラップ→公開処刑

という流れに持っていけばよいのだ。たいていの男は可愛いJKを差し向け、美人局(つつもたせ)のような仕掛けを作れば、いとも簡単に落とすことができる。男はモテたいのだ。ついさっきまで私に説教している県庁の教育委員会方々でさえも、誰も見てない、知らない…という状況さえ作ってやれば、たやすくハナの下が地面に届く… そういうことなんだよ。

 

 それはそうと、仇が女性だったらどう陥(おとしい)れたのかにはかなり興味がある。やはりハイブリッド男性の色仕掛で迫るのかな。

 

 

魅入られて 4-6 改変

6節 改変

 

 さて、ここでいう染色体改変とは…

 後日レイの分身とレイの仮想的カラダを借りて話したときの情報を交えて確認しておこう。

 

 ヒトの染色体数は46本、一ゲノムはその半数の23本でそのDNAの総延長は約1mである。ゲノム(genome)とは、gene(遺伝子)+chromosome(染色体)に因んだ造語で,精子1個には父由来の1ゲノム、卵細胞1個には母由来の1ゲノムが存在する。


 1ゲノム分のDNAの塩基配列は約30億塩基対と言われるが、そのうち酵素を含めて直接タンパク質を合成する情報(エキソンという)は約1.5%だとされている。えっと、誤植ではなく入力ミスでもなく、たったの いち てん ご %である。

 つまり残りの98.5%は、DNAの塩基配列であっても、タンパク質の設計図ではない遺伝情報なのだ。

 

 んっ、それってなんだ?

 

 遺伝情報はいつもすべてが発現しているワケではない。

 例えば赤ちゃんのときだけ働く遺伝子。強力な増殖力を誇りどんどん成長を推進する。ほとんどガン細胞並みといって良い勢いで増殖し、成長する。

 例えば性別によって働く遺伝子の種類や発現量も違ったりする。一次性徴、そして二次性徴。お年頃になる少し前、女子ならば胸が大きくなり、思わず触れたくなるような美しい肌と脂肪分とツヤが特徴的な、悩ましき曲線を描く身体になる。


 そして男性は… 

ま、こっちはテキトーに考えてくれ…

なぜか描写する気にならないので…(苦笑)

 

 もうお分かりだろうが、遺伝子が発現する複数の条件や、時間的あるいは量的条件を決めていたりするのもDNAおよび細胞質やホルモンの共同作業なのだ。

 

 こうしたゲノムを1対ずつ持つ卵細胞と精子とが受精して1細胞中に2ゲノム存在するのが受精卵である。この46本のDNAは、受精卵からヒトだけを造り出すことができる能力を持つ。無論母体の協力は不可欠であるが…


 この受精卵が分裂して多数になり、時期や場所に応じて分化したのが「体細胞」である。体細胞の塊ができれば、あとは母体が胎児を育んでくれるだろう。

 

 しかし… ヘビとヒトという組み合わせでは、民話にみられる異種交配奇譚などのような雑種をつくるのはまず不可能である。

 

 ヒトは哺乳類(哺乳綱)だが蛇は爬虫類(爬虫綱)である。ドメイン・界・門・綱・目・科・属・種の分類段階で言うならば、異綱交配(爬虫綱と哺乳綱)に相当するワケだ。通常絶対に生殖不可能であり、間違っても子供など生まれることがない組み合わせなのだ。

 

 確信を持って言える実例がある。日本では時代は太平洋戦争後、昭和の中期頃である。

まだ動物園の役割が「動物の保護」では無かった頃、とにかく話題を産み、客を集めることが大切だった。そういう時代の雰囲気の中でレオポンライガーが誕生した。

 

 レオポンはレオ(ライオン)が父、ポン(パンサー:豹)が母になった雑種である。

 ライガーはライ(ライオン)が父、ガー(タイガー:虎)が母になった雑種である。

 どちらの雑種も、父母それぞれの特徴が各所に混ざっており前衛的かつ実験的研究

…というより見世物としては最高の出来だったかもしれない。しかし重大な欠点があった。それは、雑種の二代目ができなかったことである。

 

 だからライオンと豹は同じネコの仲間(ネコ属)であっても別の種類だと言えるのであり、ライオンと虎とは別の種だと言い切ることができるのだが…

 

 たかが「種」レベルでもこうなのだから、属、科、目が異なれば雑種さえできないことは明白だろう… 普通なら。

 

 普通なら… ね。

 

 いやいや、そこに遺伝子工学の知識と技術をぶち込んだら、強制的に雑種細胞を造ることができるじゃないか!

 

 ならば… ヘビのゲノムとヒトのゲノムをなんとかミックスさせた体細胞を造ることができたなら、なんとかセックスさせなくても雑種が生じるのではないか? 

 うふふ、うまく韻を踏めたかも…


 そうすれば蛇族の精神とヒトの身体および知性を持つハイブリッド(雑種)ができるかもしれない…

 それが蛇塚一族の強烈な目標になった。

 

 もし… 

 蛇がシマヘビだとすると染色体数は16だから、1ゲノムは8本である。ヒトかヘビか、どちらのゲノムに合わせたのかはわからないが、塩基対数(長さ)や必要な遺伝子の辻褄を合わせて、染色体改変人間を創ってきたのだろう。これには高度な遺伝子工学的技術と操作が必要であり、手足のない蛇族には至難といえる。だからこそ彼らは手足や指を持った「ヒト型の身体」を要求したにちがいない。

 

 確認の意味で蛇塚一族がたくらんで成功したことを、想像だけでシミュレートしてみよう。

① 蛇の卵核(1ゲノム分)から、必要な蛇族遺伝子を選んで編集し、ヒト卵DNAの適当な部分にレトロウイルスを用いて組み込む

② ①を模造核膜で包み、除核したヒト細胞に挿入してから、その細胞を増殖させる

③ ②をコルヒチンで処理して染色体不分離を起こさせ、染色体数を倍加させた細胞核を作っておく(コルヒチンで処理すると、染色体数は倍加し、2ゲノム分になる)

④ 別に採ったヒトの卵に、紫外線を照射して、元の卵にあったヒトゲノムを無効にする

⑤ ④に③の核を注入して発生させ、桑実胚(そうじつはい)程度にまで大きくする

⑥ 適当な代理母の子宮に、⑤を着床させて胎児にする

 

 こんな操作をすれば「染色体改変人間」を創ることができるはずだ、理論的には…


 これは通常の個体として遺伝的には有り得ない全くの純系(ホモ接合体)であり、ある意味都合が良いが、近交弱勢が起きやすいし、いったん検査されればすぐに怪しまれてしまう。蛇塚一族の優秀な頭脳は、もっと簡単でバレにくい方法を思いつき、実現したことだろう。

 

 しかし、産まれただけではあまりにも不完全とも言える。ヒトの社会に紛れて、自然に暮らせるカラダとココロ、そして知性を実現するために、幾多の選抜と犠牲があったことだろうか。

 

 あの頃…

アカネはおそらく蛇塚一族の長老あたりから遺伝子操作のあやふやな知識を教わったのだろう。だから今まで何の興味もなかったゲノムのことなどを訊いてきたのだ。


 そしてたぶん私へのむごい報復を指示されたが、その指示への疑問か、私への同情からか、課された使命をなかなか果たすことができなかったのではないか?

 

 アカネの失敗を受け、急遽「蛇族の恨みをコードした遺伝子を付加」した「逆翻訳・逆転写酵素を持つウイルス」を感染させた改良型人間、それがミキであったらしい。遺伝子起源的にはアキと姉妹の関係にあたり、周囲のヒトには内緒のままに、しばしば緊密な連絡をとっていたに違いない。 

 

 つまりミキはアカネのバックアップとして蛇塚一族の意を受け、「冬休み前のキス事件」を演出し、私を通報したのだ。

 しかし後付けで「蛇族の恨みコード」をされても、内心ではその感情に共鳴しきれずに、気乗りしていなかったのだという。

 

 こうして並べてみると、始めはアキ、次にアカネが、十月からはミキが蛇塚一族の代表だったことが分って来る。ただ不思議なのは、彼女たちがもう少し強く誘惑すれば、私など簡単に料理できるじゃないか、という疑問が残ることだ。なぜだろう。

 

 私はアキが好きだし、アカネも好きだし、ミキも好きだ。ヤッテしまいたかったのも本音だし、浮気者と言われても仕方ない。自惚れかも知れないが、どの娘も本気で私と接してくれていたと信じている。

 しかしどの娘とも最後までイッてはいないし、彼女たちが私をまんまと貶めたときの報酬は何だったのだろうとか考えたすと…もうわからなくなる。


 私は爬虫類とは波長が合うから、みんなが庇ってくたんだ、と私は信じることにした。最後は蛇塚一族の長老や指導蛇とかに強制的に命令されて、仕方なく私を誘惑したのだろう…なんてね。

 

 ちなみにユリも… アキと並行して進められた別の方法で染色体の改変をした人間らしい。その方法をレイの分身の情報をもとにして、おおまかに推定してみよう。

 

①最初にできた染色体改変人間用の細胞からX染色体を一つ除き(ドラムスティック染色体が出来たときに除く)代わりに「Y染色体を加えて」ヒト雄を作る。

②①の細胞から作った精子を通常のヒトの卵に受精させ、代理母が出産する。

(実は必要な代理母をどうやってどのくらい調達したのか、非常に興味を持っている)

 

 身体が丈夫で比較的いろいろな検査成績が良好でも大柄だったため、アキやアカネ、ミキのようなエージェントの監視や支援の任務についていたらしい。

 だとしたら、アキとアカネに見切りをつけたときに、なぜユリを利用しなかったのだろうか。ミキを送りこむために「蛇族の恨みをコードした遺伝子を付加したウイルス」を感染させたりと、それなりの手間と費用がかかったはずだ。


 確かに私とユリの相性はさほど良くはなかったが、特に悪いワケでもなかった。そして当時ユリにはおつきあいしている高校生がいた。私には理解できなかったが、相手には相手なりの事情があったのだろう。

 

 

魅入られて 4-4 未練 4-5 蠱惑 

4節 未練

 私に「これ以上ない」ほどの 仕打ちを遺したアキ、アカネ、ミキの三人。彼女たちの、その気持ちは今もわからない。おそらくこの苦しみは、殺されるよりも苦しいに違いない。でもまだ、私の心の底には愛情がくすぶり、煙を上げている。三人が蛇ウイルスのターゲットになっているとレイに聞いて、なんとかして警告のための連絡を取りたいと思った。

 

 三人に憑いている蛇ウイルスの狙いは何だろう。それは私の先祖への恨みを「私」に報復することだろうか? レイと同じように、喜びと悲しみの「感情の差」だろうか。

 3人とその家族の素性は何だろう。レイの言うことが正しいならば、三人は染色体改変人間である。家族についての情報は絶無だが、まさか問い合わせるワケにもいくまい。

 そんなことを本人のインスタなんかでうっかり訊いたら、通報か暗殺されてしまう。おっと、そりゃ大袈裟かな…

 

 ああ、情けないことになったな、と思いながら、もう数か月も使っていないユリのラインを「友だち」「非表示」リストから引っ張りだした。

 

 「ユリ、ひさしぶり」 そんな軽くないか…

 「ユリ、いろいろ余計な事しゃべってくれたなぁ」 これじゃまるで脅迫だ。

 「ユリ、元気? ちょっとミキのこと教えてほしいんだけど、時間ある?」 却下…

 

 …というのも、事情聴取の過程で、ユリがアキたちのでっち上げの証言を重ねて補足証言するような役割を果たしていたことが分かってきたからでもある。

 かといって、

「このお喋りオンナがっ!」

とノノシルこともできない立場である。

 

 ラインの文面を考えつつ、こんなに困ったことはなかった。

 

 ためらった末、結局送信することができなかった。今までの経過からみて、ミキたち自体が蛇ウイルスのなんらかの企てを知り、加担している可能性も大きい。私の嫌疑の件も、一族の憎しみと代理ミュンヒハウゼンの合作だと考えられなくもない。

 

 そもそもユリの実体も判ってないじゃないか。

 

 ちなみに…ミュンヒハウゼンとは、自分を標的にして傷付けたり、多量の薬を飲んだりして周囲の同情や関心を引こうとする行為のことである。その標的が「自分」ではなく、「自分に近い者」である場合には、「代理ミュンヒハウゼン」と表現するのだ。

 そうだなぁ… 蔭では自分の子供に汚物を注射し病状を悪化させつつも、その子供を熱心に看病する姿を見せて同情を引いたりたりするのが「代理ミュンヒハウゼン」の例にあたるだろう。

 

 一度ミキのことをレイに訊ねてみたが、

『普通に楽しく暮らしているみたいよ』

と答えただけで、あとは話を逸らされてしまった。

 あくまでも想像だが、蛇ウイルスはこの状況を喜んでいるに違いない。

 

 まるで行きずりの狂犬に咬まれたようなものだ。仕方ない、もう忘れよう。忘れて新しくやりなおそう。

 私の真のパートナーは、一番苦しい今を、しっかり支えてくれている嫁どのだ。

 

 

5節 蠱惑(こわく)

 

 …などと誓いを新たにしながらも…

 

 レイの胸は実に見事で、言っちゃアレだけど世界最高だと思う。ハリ、色ツヤ、柔らかさ、ちょっと威張っている誇り高い小さな乳首の反応など、私を夢中にさせる蠱惑的な魔力を帯びる。こんなこと言うと、まるでレイに手を出してしまってるみたいであるが…

 

 実はそのとおりなのだ。

 

 それを非難する前に、冷静に考えてほしい、レイの存在を。

 レイは生徒ではないし、人間でもないし、そもそも実体がない。おまけに私はとっくにレイの奴隷なのだ。

 感染されている以上、私はレイに生殺与奪(せいさいよだつ)を委ねるしかなく、レイのあどけないクチビルや美しい背中のラインや見事過ぎる曲線で縁取られた豊かでこのうえなくやわらかな「胸」に奉仕するのが奴隷として当然の努めなのだ。

 

 レイは私の脳の好みを熟知しており、レイが私に好意を持つ限り、私の憧れの反映を見せてくれるのだろう。それにそしてそれは女性がらみで免職になるかもしれない私にとっては、嬉しすぎるノルマとしか言いようがない。

 

 ああ、私って意外とエッチだったなぁ…

 

 今は、理不尽な犯罪者だった御先祖様に感謝申し上げるしかあるまい… 変な感じだけど、私としては。

 

 多少気になるのは、その際の私の姿とふるまいではあるが、人前ではないから…まあ良しとしよう。

 

 不思議なのは、レイには実体がないはずなのに、温もりや触感がおぼろげにあることだ。脳にも感染したレイが、私の脳の感覚野を刺激しているのだろうか。だとするとレイは愛撫を受けながらも、なかなか忙しい気遣いをしていることになる。この辺どこがどうなっているのかわからないが、レイが望んでくれていることだし、しばらく黙って言いなりになっていようと思う。

 

 かと言って不満が無いワケではない。私の創造力が欠落しているのか、下半身があやふやで、なんとなく困る。絶対に妊娠する気遣いはないが、どんなものだろう。悩みとしては贅沢過ぎる気もするが、そこはそれ、大人の叡智とかユメユメとかで何とかするしかあるまい。

 

 もう一つのためらい、それは「これは浮気なのか」という命題。くどいようだがレイには実体がなく、子供が産まれたり財産分与したりすることはないが、私の「肉体の愛情」はレイが独占していることになる。

 別の表現をすれば、レイは私の脳の産物だが、感情も行動もレイの支配下にあるという関係なのだ。つきつめると、ユメユメのエロ動画を見ながら自家ドリームするのと大差は無い気がする。これは浮気ではない、と私は定義して、毎日を過ごしている。

 

 ただ… この至福とも言える生活に変化が訪れかけていた。こころなしか、レイの元気がなくなってきたような気がするのだ。

 

 今朝はとびきり早くレイが出てきた。なにか思い悩んでいるようだ。案の定、

『悪いお知らせよ』

と切り出してきた。どう連絡を取ったのか、昨日レイの分身から調査報告があったという。

 

 レイの説明はこうだ。

 

 私の三代前の御先祖は「信元(のぶもと)」という名前らしい。信元はあろうことか行きずりのレイの美貌に目をつけ、付け回し、人目のないところで襲い犯し慰んだ挙句、殺して埋めた。おかげで私は今レイに感染され、現に復讐されつつあり、今後も復讐を加算されかねない立場にある。

 

 さらに信元は、のちに某地方中都市に出て、「区画整理事業」に関わり、その一環として、住民の反対を押し切り、小さいながらも由緒ある蛇塚を壊して区画整理を実現したらしい。今回の騒動で片鱗を見せたこの蛇(ギンとアオ)の一族は、抗戦を決意しながらも効果的な策を打ち出せないままに敗退、多数の犠牲蛇を出した挙句唯一の拠り所さえも失ったのだった。この蛇の縁者を、ここでは「蛇塚一族」という名で表記していきたい。

 信元は周囲の反対を強引かつ陰険に押し切って事業を進め、しこたま儲けた金で某悪辣政治家を応援したというが、詳しいことはわからない。

 

 蛇塚一族は復讐を固く決意し、相応の科学力を身に着けながら復讐の準備を進めてきたという。どんな手段かはわからないが、蛇塚一族の意に叶う者を大日本帝国陸軍や製薬会社の要職や研究職につけていったようだ。

 かの悪名高い満州七三一部隊、そしてその流れを汲む戦後の製薬会社にも関係者がいたらしい。ヒトと蛇がどんな方法で優秀な子供を募り、蛇塚一族として洗脳教育したのだろうか。何らかの利を与えてそそのかしたり、危害を示唆して脅したりしたのかもしれない。

 

 そして…

 学会に報告こそされていないものの、実は一九八二年には既に最初の原始的実験的染色体改変人間を生み出していたのだという。ガードンによるアフリカツメガエルの発生の初期化実験が一九七五年、クローン羊のドリーが一九九七年だから、まさに恐るべき科学力である。

 

 ミキの出自である蛇塚一族の狙いは何か。それは私の先祖への恨みを私と私の家族や親戚に報復すること。同時に「蛇塚一族の意思を人間界で具現する人間」を人間界に配置することだった。

 

 ミキとミキの家族の素性は何だろう。レイの言うことが正しいならば、ミキは染色体改変人間であり、アキとアカネとは姉妹のような関係にある。家族については情報が無く、正体はわからない。ただ蛇塚一族と極めて深い関係にあり、もしかしたら「蛇塚一族の意思を人間界で具現する人間」を養成している家族なのかも知れない。あの美貌と器量ならば、色仕掛けでも美人局(つつもたせ)でも何でもイケるだろう。

 

 これは全くの推測に過ぎないが、いつからか復讐だけではつまらないと考えた蛇塚一族の首領、指導者ならぬ指導蛇(しどうじゃ)が居たのだろう。そしてその意思と計画に基づいて「人間界に影響力を行使できる存在」を人間界に配置するようになったのだろう。いわば「影の蛇塚一族の利益代表」、スリーパーである。こうしておけば意に沿わない工事や建設を未然に妨害することができるし、逆に何らかの利を誘導することもできる。いわゆる「族議員」が今も実践する手口である。

 

『今ではこっちが主力で、復讐なんて半ば忘れられてたみたいね』とレイは言った。

『人間が気付かないうちに相当数のシンパとかエージェントが活動してるみたいだよ』

とレイは笑ったが、私には笑えなかった。おそらくそういうシンパに私は発見されていたのではないか…

 

 仇発見の報告に、さっそく数人のエージェントが動いたのだろう。

 

「それが私の異動…なんだね」

『ふふふ、よくわかったわね』

おそらくは、県教育委員会か快晴高校または時雨高校長あたりにそういう立場の蛇族が居たに違いあるまい。

 

あっ、快晴高校の校長は、たしか…長澤

黒縞アキ、朽縄アカネ、青島ミキ、長野ユリ

みんながみんな、長いだの、シマだの、縄だの 青はアオダイショウか?… 

ええええ、そんなことって!?

 

 そういうことか… だからヤツは私をどうしても異動させたかったのか…

 

「わかるさ、ひどいな… バカにすんなよ…」 

そんな思いもあって、と私はむくれた。

 

『うふ…ごめんね。ねぇアキとは結局キスとかフィジカルな接触はなかったよね?』

「そだね」

『で、途中でアカネと交代かな』

「アキが嫌ったか、もし触るか服でも脱がせるかしたらさ、チクる計画だったかもね」

『アキはさ、結構早い時期に抜けてたよね。でもアカネともその頃は何もないわね』

 

「なるほどな。アカネは、途中で親バレしとるぞ」

『それわからないね。もう絶対ヤッタでしょ…ってカマかけられたかな?』

「やってないんだな、これが。ちょっとやりたかったよ、かなり」

『もぉ… 幾つ股掛ける気なの?』

 

「アカネは時間かかり過ぎて御役御免か。それか嫌気が差したとか、私を庇ってくれたのかもな。あの娘はきっと庇ってくれたと思うな、あのときはね」 

『妙に自信あるんだね』

「アカネはね、九月に『先生を守った…攻撃しなかったよ』って言ってくれたんだ」

『へえ…そして代打ミキ。フィジカル(接触)の最初はできたけど、そこまでね』

「あの状況で最後までイケる奴がいたらむしろ凄い。誘惑されても、そんな度胸ないよ… ふたりぼっちだったならなぁ… はぁ…」

『まあまあ…落ち着いて』

「おーまいがっ! だからみんなで、か…」

 

『ねえ。ぼーっとしたって言ってたよね』

「あああっ、もしかして睡眠薬とか? なかなかの推理だな」

『可能性無くはないでしょ?』

「そこまでするかって普通思うよね… 実は確実な証拠握ってるんだけどね、今更出せないだけなんだなぁ… 脳に書いてない? サリドマイドって…」

『あ、そうだったね。普通じゃなかったんだっけ… そこで振り払えって、説教されてたよね、教育委員会で… アレはどうみても無理だわ』

 

「正直アキもアカネもミキも魅力的過ぎるなんだよ。十人が十人無理だわ、てめぇら振り払ってみろって」

『まぁ…オンナ冥利に尽きるわね。あたし…もうじきお餅コゲルわ』

「あああ、普通の関係で会いたかったな、三人と。グチだけどさ」

『テンテ、普通でそんなモテル訳ないじゃん』

「もっともだワン。三人共たまたま時雨高校にいた染色体改変人間だったんだね」

『まんまとハメられたのね、テンテ』

「まんまんハメたかったよ… って、下ネタじゃねえか… レイ、言わせんなよ」

『うふふ… もうダメよ… テンテはレイのもの』

「あ、そうだレイ、今度分身さんと直接話したいけどさ、紹介してよ、ね」

『うん、わかった。 あ、でも浮気はダメだからね』

「するもんか… ひどい目にあったばかりだ それにレイ、わかるだろ?」

 

『テンテ、ちょっと可哀想…』

レイは片目を瞑ってみせた。横顔が壮絶に可愛くて思わず抱き寄せた。

レイは… されるがままだった。

 

『レイもね、ストレス溜まっちゃったの』

レイは両目を瞑ってしまった。

半開きのクチビルが、こちらをむいて誘っていた。

 

 

魅入られて 4-3-2

仮説

3.逆翻訳・逆転写ウイルスが未発見だったのは、実在しないからだ。

 

 「病気」は検査されるが、幽霊を見たからといって、ウイルス感染を疑うことはない。頭の中身を疑われることはあるだろうが… 

 一見正常に見える人でも、実はこうした恐怖ウイルスの感染者の中に「霊的現象に遭遇しやすい人」がいても不思議ではない。

 特にヒトでは好奇心や連帯感、病気の看護に伴って感染の機会が増えるように思う。逆翻訳・逆転写ウイルスが存在するものとして、それはヒトに幽霊を見せるだけの存在なのだろうか。

 

 私にはそうは思えない。霊的存在になったり、逆にそれを怖がったりするのはヒトだけなのだろうか。そんなワケがない。ヒトは進化の過程で生じた種であり、その系統的進化から見て、ヒトだけが霊になったり魂を持ったりするのはおかしい… と。

 恨みをのんだヒトの幽霊譚はしばしば耳にするが、家畜のニワトリや豚や牛が化けて出た話は聞いたことがない。このことは、今までも「霊的存在」をヒト自身が創造しているからなのだ、と解釈していたし、広言してきたことでもある。

 

 つまり、ヒトを宿主とする逆翻訳・逆転写ウイルスが存在するならば、他の動物にも間違いなく存在する。つまり進化のどこかの過程で、逆翻訳・逆転写ウイルスが誕生し、おそらく「種の進化」に関わったのだ。

 

 その一環として、ヤツラはヒトにも感染しており、霊的存在を見せ、聞かせ、信じさせている。スリルを求め、みんなで怖いものを見に行くのも感染機会増加に役立つだろう。また不安を感じると交感神経系が興奮し、ストレスと本能に従った生殖行動が起きやすくなる。戦争の前後で出生率が増加するのは万国の常識である。

 

 では他の動物ではどうだろうか。他の動物も、たとえば天敵が近くにいるなどの不安を感じるとなんとなく集合し、「群れ」をつくる。

 加えてノルアドレナリンの作用で体表の血管の収縮することにより血流量が下がり、ほんの少し酸素欠乏気味の細胞が悲鳴をあげるのだ。レイの話によれば、それはウイルスを心地よく刺激し、感染意欲を誘うのだろう。

 この種のウイルスはどんな動物にも、おそらく広く感染しているのだ。

 

結論:きちんと研究されていなかったから見えていなかったのではないか。証拠こそ持ち合わせてはいないが、逆翻訳・逆転写ウイルスは実在すると考えても非合理的ではない。

 

仮説

4、霊的現象は、すべて逆翻訳・逆転写ウイルスの感染による病気の症状である。

 

 逆翻訳・逆転写ウイルスは、ヒトの恐怖感を煽り、ヒトは勝手に幽霊を想像してしまう。白日夢や夢などの一部もこれに当たるかもしれない。しかし全てをこの仮説で説明するには無理がある。逆に、

 憑き物筋=ウイルス感染家系=見える人家系

 犬神憑きや(男系の)祟り伝説

 霊媒

などの話は、これらウイルスの親から子への垂直感染ではないかと容易に想像できる。

 

 また憑き物や霊媒は家系、日本では主に男子家系だと信じられてきたが、実は女系なのではないのかとも疑える。Y染色体一本の縁よりも染色体一セット(ゲノム)分の体質とウイルスと考えた方が、はるかに無理が無いだろう。ただし結論を出すにはデータ不足であるが…

 

 ただ… 気のせいだけで片付けるのには無理がある。例えば… 近頃では監視カメラなどが発達している一方で、どう細工のしようもない現場と場面で「ポルタ―ガイスト」や「オーブの乱舞」などが記録されているのも、動かしがたい事実である。ただしこれが「幽霊」の仕業であるかは不確実である。

 不可思議な説明できない現象までは、ここでは追及しなくても良いかと思い、あいまいなままにしておこうと思う。

 世の中ミステリーもロマンも必要だし… ねっ!

 

結論:基本的には幽霊は実在しないが、例外があることも否定しきれない。

 

仮説

5、幽霊は心霊スポットに棲んでいる。

 

 いわゆる心霊スポットといえば、トンネルや廃墟が定番だが、他にも祠(ほこら)や慰霊碑、禁断の箱などの容器、仏像、歯、髪の毛、ミイラなどの偶像がある。生き物としてはや狐、狸、蛇、伝説的な蠱(こ)などが挙げられるかもしれない。これらを囲い込むときにはしばしば結界が用いられ、なぜか絶対的なバリアになっていることが多い。

 

 しかし… 結界とは言っても、せいぜいのところ「しめ縄一本」でそんな万能バリア的なことが可能なのだろうか。

 

 心霊スポットは普通ただでさえ物寂し気な場所にあり、人混みのなかには無い。幽霊をヒトの脳が勝手に見るものとすると場所は問題ではなく、「場所や偶像の雰囲気や評判」が心霊を見せていることがわかるだろう。後期のエイズでは、普段誰もが持っている細菌やカビが日和見(ひよりみ)感染を起こすことが知られているように、「恐怖タンパク」が常に過剰な方には、メンヘラ等何らかの症状が出ている可能性がある。

 

 生き物はズバリ感染生物であろう。

 

 結界の効果はわからないが、たぶん無効かプラシーボ(偽薬)程度のものだ。

 

 ウイルスにとって最も困る事態は、医療技術の向上または免疫細胞に、感染が発覚して駆除されてしまうこと。したがってウイルス全般としては科学の発達は望んでいないが、中にはレイのように知的好奇心が強いものもいるかも知れない。ただしウイルスの思想や意見が宿主の脳に依存する可能性は否定できない。

 

 ミキには元々爬虫類等を宿主とする蛇ウイルスが感染しており、一時は「苦しむエネルギーを利用する」意味でレイと利益が合致したが、私を告発した後はレイと手が切れた形になっている。それが本当でも嘘でも、おそらく私は何らかの手段で監視されているだろう。

 

 レイをハリガネムシとすると、私はカマキリの存在である。レイの存在によって、私の脳内における「ウイルスとの会話が不完全ながらも可能」になり、今はレイの意思表明の手段として文章を書かされている… というのが私の推論である。

 

 そういえば、今まで文章書いてみようなんて思わなかったもんな…

 

結論:動物が幽霊(ウイルス)の棲み処、つまり感染源。植物は考慮の材料がない。

 

仮説

6、レイおよび「レイの記憶と怨念」の正体は逆翻訳・逆転写ウイルスである。

 

 ここまで考えたら、今度は「レイの正体」が気になってきた。私の数代前の先祖が犯して殺したのがレイだとすると、百歳を軽く超えることになる。見た目はせいぜい16~18歳、つまり未成年でしかない。

 そっか、見た目は私の脳の産物だから無視しなければならないな。

 

 レイはレイそのものではなく、ウイルスに操縦された私自身恐怖タンパク質の産物だとすると、「レイの記憶と怨念の正体」は何だろう?

 

①レイは犯されるとき、恐怖を感じたに違いない。

(この仮定にさえ嫉妬を感じる自分に驚いたが…)

②レイの脳で恐怖タンパクが合成され、すでに感染していたウイルスがこれを逆翻訳&逆転写する。

③生じた恐怖DNAの一部がヒトDNAに組み込まれる。

④③のDNAを活用して、将来子ウイルスが生じる。

 

 ん、ちょっと待て…

 

 あれ、おかしいぞ… 

このままでは怨念の「記憶を持ったウイルス」はできないじゃないか? 

 

何度も考え直してみた。

 

おお、そっか…

 

 犯される時間の長さと被害者の感情や性格によっては「恨みや怨念の記憶」を意味するタンパクができる可能性がある…としたら、どうだろうか。

 

 ちょっと大胆すぎる想像かもしれないけど。

 すると②以降を変える必要があるだろう。つまり、こうだ。

 

①レイは犯されるとき、恐怖を感じたに違いない。

②レイの脳で「恐怖タンパク」と「怨念の記憶を持ったタンパク」が合成され、すでに感染していたウイルスがこれらを逆翻訳&逆転写する、と修正した方が良い。

③生じた恐怖DNAと怨念DNAの一部がヒトDNAに組み込まれる。

④③のDNAを活用して、将来子ウイルスが生じる

 

 これなら… 怨念の記憶をウイルスが持つことを説明できそうだ。しかしこの仮説が正しいとすると…

 レイの人生の最後が一層哀れに思えてくる。

 

 ウイルスの増殖は速いが、それでも一瞬で増殖できるワケではないからだ。「怨念」がウイルスに記憶されたということは、レイが生きている状態で犯され、その後殺されるまでに時間がかかったことを意味している。レイは確かに「復讐」だと言っていた。

 

 ウイルスの増殖時間なんて…

自分の僅かな知識をスキャンしてみても、そんなものは… ない

 

 …いや、あった。

大腸菌を宿主とするウイルス、バクテリオファージ(T2ファージと記載されている場合がある)で、最速の条件で確か20~30分ほどだったはずだ。それが1個でなく少なくとも百万個レベルまで増殖するには…

 

 レイ、可哀想に… レイはどれだけ苦しんだの? 考えるだけで痛ましかった。

 

結論:レイおよび「レイの記憶と怨念」の正体は「逆翻訳・逆転写ウイルスの作ったタンパク質またはDNAやRNAである」と考えると、合理的に説明できることが多い。

 

 … 知らぬ間にドドンと疲れていたようだ。

気付いたら起きた瞬間だった。いつの間にか眠り込んでしまっていたようだ。

 

 うっ やばい… あと15分で事情聴取の時刻だ!

仕方ない、今日は発熱したことにしておこう。もう、おやすみおやすみ!

 鼻つまんで、弱弱しそうに電話しとくか、 あ~あ…

 

  

魅入られて 4-3-1 仮説   

3節 仮説

 

 そのあとしばらく布団から出ることができなかった。

 

 免職必至という状況だけでも十分衝撃的なのに、私の中にすでにパラサイト(寄生者)が入り込んで勝手に思考や身体を操っていること、幽霊の正体の一端を掴んでしまったかもしれないこと。

 

 おーまいがっ!

なんか妙な塩梅(あんばい)である。

 

 幽霊ってなんだろう? 

子供の頃から聞かされ恐れ畏敬してきたもの。

神出鬼没で実体がなく、恨みを晴らしに夜毎に現れるとされる霊的存在。

レイと、いやもしかして私自身との対話の中で判明したことを、私なりの解釈を加えた「仮説」としてまとめてみよう。

 

  今考えていることが… 使える仮説なのか、それとも単なる被害妄想思い込みなのかは、書いてみればはっきりしてくるに違いない。その途中で矛盾に気付いたりするのも、また一興ではないだろうか… ふふふ

 

仮説

1、霊的現象の正体の一部は、逆翻訳酵素・逆転写酵素を持つウイルスの感染による、「ある種の感染症」である。

 

 セントラルドグマの頃には想定されていなかった「逆転写酵素を持つウイルス」は、そのあとの研究で確認されている。ヒトエイズウイルス(HIV)を代表とするレトロウイルスの仲間などである。

 同様に逆翻訳酵素・逆転写酵素を持つウイルスが未発見であったとしてもおかしくはないだろう。

  もともと動物は、「脳に恐怖感をもたらすタンパク」を持っているはずだ。これが多くなると恐怖を感じると言う意味で、ここではそれを「恐怖タンパク」と呼ぶことにしよう。なお、タンパク、RNA、DNAの関係については先に述べたとおりである。

 

 仮説的「逆翻訳ウイルス」のはたらきを整理してみよう。

擬人的に「レイに取り憑かれたときの症状」と言っても良い。

 

 まずこの仮説的「逆翻訳ウイルス」(以下逆翻訳ウイルスとする)は、【逆翻訳酵素】と《逆転写酵素》とDNAを持つものと考えておく。上で挙げたレトロウイルスが【逆翻訳酵素】を持ったスタイルを仮想して話を進めたい。

 わぁ、演繹的だなぁ(苦笑)

 

 遺伝子を「DNA」に決めつけたワケはこうだ。

レイの話が確かならば、それから100年以上の時を越えて「記憶」が受け継がれていることは明らかである。細胞内ではRNAは核外で使い捨てに近い用途であるのに対して、DNAは核内に大切に保存されている。RNAは複製(コピー)の際、1万に1つ程度の誤りが起きるとされているが、DNAの場合は10億に1つ程度の誤りだと言われている。つまりRNAの複製は、正確とは言い難いのだ。これは子孫に伝える遺伝情報が徐々に変わっていくことを意味していることになる。

 しかし… ウイルスの中には遺伝子としてRNAを持つものも多数含まれるが、そんなに変異してしまって良いのだろうか?

 われわれウイルスのホストは「免疫」というシステムを持ち、細菌やカビ、ウイルスなどの外敵の侵入に備えている。この免疫系は体内にある物質が「自己」か「非自己」であるかを見分ける手段は、その物質が持つタンパク質の種類である。DNAウイルスは変異しにくいために、いつも同じ種類のタンパク質の服を着ているため、かつて闘った免疫系のリンパ球に「ああ、あいつか」とバレて、すぐに駆除されてしまう。この作用を応用した予防的療法がワクチンである。

 

 しかし… RNAウイルスは変異しやすいため、しばしば「タンパク質の種類が微妙に変わる」、つまり「ウイルスが服を着替える」ことになる。免疫系にとっては、敵か味方かはっきりしないような『初めての新しい何か』に化けてしまうので、駆除も後手後手になってしまう。RNAウイルスの狙いはそこにある。ゴテゴテのスキと混乱に乗じて増殖してしまうのだ。 

 こうして「新型」は瞬く間に増殖し、拡散する。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、ヒトエイズウイルスなどはこのように変異し、タンパク質の服を着替えながら流行していくのである。例えばひとりの売れっ子ファッションモデルが、コートからセーター、ワンピースにTシャツ、スク水、ビキニへと服を脱ぎ捨てていくような感じだろうか。この場合はむしろ次が楽しみかな… 

 売れなくなればAV落ちとか、よくあるパタ… まてまて、何の話だ?

  要するに… 中身は同じでも、外見が変われば免疫系をだまくらかすのは容易いことなのだ。

 

 元に戻そう。RNAという物質の性質から見て、100年以上も前の話を正確に記憶できるはずがない。逆にDNAにならそれができる、と私は考えたのだ。

 

 念のために繰り返しておく。

以下逆翻訳ウイルスは、【逆翻訳酵素】と《逆転写酵素》とDNAを持つものとする。

 

 何らかの怖い体験や経験、または強い痛みや精神的想像による刺激によって体内で恐怖タンパクが合成されると、

①逆翻訳ウイルスがこれを感知して、逆翻訳酵素のはたらきで逆翻訳する。

②「恐怖タンパク」のアミノ酸配列が、RNAの塩基配列に置き換えられて「恐怖RNA」が生じる

③「恐怖RNA」が逆転写酵素のはたらきで逆転写されてDNA化され、「恐怖DNA」が生じる

④その「恐怖DNA」がヒトDNAの中に挿入される。

 

 ここまでがこの逆翻訳ウイルスの特徴である。

 

 このあとは他のウイルスと同様に

⑤ヒト細胞に「恐怖DNA」を転写させて、多量の「恐怖RNA」を作らせる

⑥ヒト細胞に多量の「恐怖RNA」を翻訳させて、多量の「恐怖タンパク」を作らせる

⑦多量の恐怖タンパクがヒトを怖がらせ、その恐怖の反応がウイルスに何らかのメリットをもたらす。たとえば、怖くてみんなで集まったりすれば、他者に感染できる機会が増えるだろう。

 

結論:霊的現象は逆翻訳酵素・逆転写酵素を持つウイルス(または寄生体)の感染によるという仮説を提案しても、大きな矛盾はないだろう。

  

仮説

2、逆翻訳酵素と逆転写酵素は進化に不可欠なツールである

 

 「幽霊」の正体が、恐怖を感じさせるタンパク(恐怖タンパク)を特異的に増加させるウイルスの「感染による病気」であるならば、霊的現象の大部分は「ウイルスによって増幅された自己の恐怖タンパクに自身がおびえた結果」だと言うことができる。

 またハリガネムシのように、「他の生物の行動を制御したり干渉したりできる特定のタンパク質」を量産させる方法が発見できれば、まさにエポックメイキング的な学会発表ができるだろう。

 

 気になる女子を「その気にさせる」タンパク質を、その子の体内に作らせることができれば… なんてね、テヘ…

 

 実は… 以前から思っていたことがある。

 進化論はまどろっこしすぎる、と…

 

 たとえば、進化はしばしば都合の良いことばかりが重なって起きている。そこに作為を想定してはいけないからこそ、進化論には決定打がないのだ。

 

 「中立説」など今の学説は半端すぎて、説明できるのはせいぜい亜種の分化まで、素人目にも門・綱・目・科・族レベルの「大進化」などとうてい説明できそうにない。

 

 だから… ここでは多分に偶発的であったとしても、逆翻訳ウイルスによる生物の作為的変異の可能性について考えてみたい。

 

 進化の過程でたまたま生じた「役立つタンパク」を「RNA化、またはDNA化」できるような「画期的な遺伝子の作用」がなければ、進化は極めて遅いはずだし、多様な種分化は起こりえないだろう。たとえ何億年かけたとしても、魚類さえ誕生しないのではないか。

 

 水界からの陸棲化などはさらに至難である。

 例えば魚類から両生類が進化するためには、

  体表をウロコ→皮膚に

  呼吸をエラ→肺(と皮膚)に

  ヒレ→四足

  幼生→成体に(変態)

  尾有り→尾無し、というか廃止(アポトーシス

 

 外見的なことをざっと数えてもこんなにたくさんの課題を解決する必要がある。

 

 体内の仕組みはさらに複雑で、

  窒素系排出物をアンモニア尿素を合成して尿を排出

  剥き出しの卵→ゼリー層に包まれた卵

  内部骨格の配置換え

  筋肉の付け替え

 

 …などといったたくさんの

 「それぞれ不可能に近いことを」

 「しかもほとんど同時にやり遂げなければ」

…両生類は誕生しないのだ。

 

 こうした生物の進化にも逆翻訳や逆転写の機能を持つ「何か」が関わった可能性は大きいのではないか。

 「何か」をウイルスとすると都合の良いことがある。それは「遺伝子の感染および伝染」である。通常の「受精」では、遺伝子の交換は生殖の時期にしか起こらないし、そもそもある程度の時間(齢)に達するまで生殖は不可能である。

 しかし感染や伝染なら、種内に瞬く間に広がり得る。エイズウイルスなどが宿主細胞内でDNA化したあと、次にウイルス化するときに宿主の遺伝子の一部を持ち出すことがあるのは、既に知られたことでもある。

 

 偶然生じた異常タンパクや分子シャペロンによる成型に失敗したタンパクは、通常はオートファジーなどで分解される。また宇宙放射線などによる突然変異によって生じたタンパク質も、通常は一個体の、ほんの1部分の変異として個体の死と共に消滅するものである。

 

 しかし…

たまたま生じたタンパク質などが、病原体である「仮説ウイルス」にとって有用であったならば…

 逆翻訳後に逆転写され、生じたDNAがその個体の「生殖細胞」に組み込まれることがあれば、その後は「遺伝子」として子孫に残り得るはずではないだろうか。

 

 むしろこういった「病原体による遺伝子の選抜」があってこそ、地球上の多様な生物が生まれたのではないかと今は思い始めている。

 

 「選抜」の理由… それはその種や個体の勝ち残りこそ、「病原体」の勝利に直結するからだ。宿主をシクシクと搾り取るのが「高等な病原体」である。そしてその「選抜」こそが、生物進化の原動力となっているように思えるのだ。

 

 極言すれば… むしろ逆翻訳ウイルスによって、生物は「進化させられた」と表現するほうが適切であるかも知れないのだ。

 

結論:「逆翻訳酵素と逆転写酵素は進化に不可欠なツールだ」という仮説は、大進化論の欠点を補えるという意味で魅力的である。